料理人 野﨑洋光

Vol.1小さい頃の思い出と味噌と。

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生まれは、自然豊かな福島
特に食べ物には恵まれた環境でした

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野﨑洋光さんが生まれたのは、福島県石川郡古殿町(ふるどのまち)。

自然がとても豊かな地域で、春は畦道に生えている“よもぎ”を採っておまんじゅうを作ったり、山に入って山菜やたけのこを採ったりと、常に新鮮な食材に囲まれて育ったそうです。

「家は兼業農家でしたので、野菜などは必要になったら裏の畑から引き抜いてきて料理にして食べていました。冷蔵庫を介さない生活といいましょうか、いつも新鮮な食材が身近にありましたね。魚も肉もよく食べていましたし、食べ物にはとても恵まれた環境で育ったと思います」

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林業や農業が主体だったこの集落には、当時20軒ほどの家がありました。

「毎年、5月の連休が終わった頃に田植えがはじまります。機械もない時代で、かなりな重労働でしたので、近所の家々どうしで労働力を分け合い、田植えを順番に手伝っていくのが当たり前でした」

この労働の交換を「結」(ゆい)というそうです。

「近隣の人々の心やつながりを結ぶ、という意味があるんだと思います。一軒だけじゃ暮らしていけませんからね。そうやって、みんなでコミュニケーションをとりながら、地域で結束して助け合って暮らしていました」

野﨑さんも田植えのお手伝いをされましたか?

「手伝いといっても、そんな大したことはできませんよ。田植えをしている人に、苗をポンポンと投げていくくらいですよね。でも本当に楽しみだったのは、食事なんです」

「結」の期間は
それぞれの家がごちそうをふるまう

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この「結」の期間は、お手伝いしてくれる人のために、それぞれの家が朝から準備をして、昼食、おやつ、夕食をふるまいます。

これを「結返し」(ゆいがえし)のおもてなし、というそうです。

「どこの家の料理も、それはそれは豪華でしたよ。お刺身に煮物、漬物、お赤飯、具だくさんの汁物、おはぎなどのごちそうが並んでね。そして夜は宴会になるんですよ。今日はうち、明日はお隣さんの家、明後日は親戚の家、というように順々にまわり、それが10日間ほど続きます。毎日がお祭りのような感じでしたから、僕ら子どもたちはそれぞれの家のごちそうが食べられて、本当に楽しかったですね。でもその準備をしていた母や叔母たちはとても大変だったと思います」

そんな地域の結束が強い中で育った野﨑さんですが、それぞれの家の匂いの違いを感じていたとか。

「今って、そんなに家ごとの匂いってないじゃないですか?でもね、当時はあったんです。何がその家の匂いを決めていたかというと、僕は味噌汁の匂いだと思っているんです」

それぞれの家の味噌汁が
その家の匂いを作っていた

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「どの家にも囲炉裏があった時代です。今でも私の実家には囲炉裏がありますけれどね。各家庭の囲炉裏では、味噌汁が入った鍋がいつも温められていました。コトコト、グツグツとね。家にはいろんな人が出入りすることが多かったので、誰かがきたらこの味噌汁を出してもてなす、ということをしていました」

それぞれの家には、それぞれの味噌汁がある。家庭ごとに違う出汁を使い、いろんな具が入った味噌汁が囲炉裏でコトコト温められて、それが家の味と匂いになっていく──懐かしくて温かい、思い出の光景ですね。

おやつがわりによく食べた
じゃがいもの味噌炒めは
「おふくろの味」です

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野﨑さんには、もう一つ、小さい頃の思い出の味があります。

それは「じゃがいもの味噌炒め」です。

「夏になると、いも掘りっていって、じゃがいもを収穫するんです。そのときに掘った小さなじゃがいもを、おふくろがゆでて味噌炒めにしてくれて。おやつがわりによく食べました。僕は甘いものがあまり好きじゃなかったから、これが大好きでね。大皿にドーンといっぱい並んだ味噌炒めを、友達と一緒にハフハフ言いながら、大喜びで食べてましたね」

ちなみに、野﨑さんはこの料理のことを「カンプラの味噌炒め」と呼んでいます。福島のこの地域では、じゃがいものことを「カンプラ」と呼ぶそうで、オランダから入ってきたときの「アールドアップル」がなまってそう呼ばれたとか。

「僕は、この“カンプラ”の味噌炒めのおいしさは、味噌にあるんだと思います。皆さん、味噌を使うということは、塩味を足すことだと思っているかもしれませんが、実はそれだけじゃないんです。味噌を足すことは、うま味を足すことなんです。味噌は発酵させて作りますよね。その発酵の際に、うま味が作られる。だから味噌を料理に使うと、味に深みや広がりが生まれるんです。素材が新鮮であればあるほど、余計な手をかけすぎず、シンプルな味つけで、素材のおいしさを楽しんだほうがいい。それこそが本当の贅沢だと思いますね」

食材にうま味を与えてくれる味噌。この味噌との思い出は、この後、料理人・野﨑洋光さんの味にどう影響していくのでしょうか。

次回をどうぞお楽しみに。

じゃがいものみそ炒め

じゃがいもの味噌炒め

材料(作りやすい分量)

  • 小じゃがいも

    400g

  • にんにく

    1かけ

  • ねぎ

    1/2本

  • サラダ油

    大さじ2

  • A
    味噌(おすすめは「会津みそ」)

    100g

    砂糖

    大さじ2

    50ml

  • 赤じそ(なければ青じそ)···5枚

作り方

  1. じゃがいもはよく洗い、皮つきのままでゆでる。

  2. にんにく、ねぎはみじん切りにしてAとまぜ合わせる。

  3. フライパンにサラダ油を入れて熱し、1のじゃがいもを炒める。焼き目がついたら余分な油をペーパータオルでふきとり、2を入れて煮からめる。

  4. 仕上げに赤じそ(なければ青じそ)を手でちぎって入れ、軽くまぜ合わせ器に盛る。

「じゃがいもの味噌炒め」に
おすすめの蔵乃屋の味噌

会津みそ

会津みそ

「じゃがいもの味噌炒め」で味の決め手となるのは、味噌です。
熟成を経ることで大豆の旨みが凝縮し、濃厚な味わいの会津みそ。香り豊かな粒味噌で、ぜひこの料理を作ってみてください。

『料理人 野﨑洋光』を観る

信州二十五割糀みそ 粒