料理人 野﨑洋光

Vol.14料理は温度。
加熱に気を配ればもっとおいしくなる

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和食のだしは、いわば「インスタント」。
もっと手軽に使ってほしい

これまで「うま味のある具材を使えば、味噌汁にだしを使う必要はない」と語ってきた野﨑さん。

「そういうと、みなさんうなずくでしょう。それは、だしをとるのは面倒、大変、だと思っているからですよね」

はい、とても面倒だと思っています、と苦笑する取材陣。

「確かに、フランス料理のだしであるフォンドボーは、仔牛の骨や肉を焼きつけてから香味野菜と一緒に何時間も煮てとるものですね。中華料理の鶏ガラスープも、鶏のガラと香味野菜を使って何時間も煮出します。どちらも家庭料理でやるには時間も手間もかかってむずかしい。それと比較したら、和食のだしって、すごく簡単だと思いませんか?」

なるほど。和食のだしは、かつおぶしと昆布をほんの数分火にかけるだけでできますね。

「そうなんです。だから僕は、和食のだしは『インスタント』だといってもいいんじゃないか、と思っているんです」

取材陣は、目から鱗が落ちたような気持ちに。

そこで、野﨑さん流のかつおぶしと昆布のだしのとり方を教えてもらいました。

●かつおぶしと昆布の一番だしのとり方

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① 鍋に水1リットル、昆布10gを入れ、中火にかけて煮る。

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② 細かい気泡がたくさん出てきて昆布が少し浮いてきたら、水温が約80℃になっているので、昆布をとり出す。

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③ 削ったかつおぶし10gを加え、1分ほど煮る。

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④ ボウルにざるとペーパータオルをのせ、すべてを注ぎ入れてこす。苦味が出るのでしぼらない。

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「これが一番だしのとり方です。大切なのは温度。うま味が一番引き出されるのは、昆布は約60℃、かつおぶしは約80℃といわれています」

なるほど。だから水から昆布を入れて温度を上げていき、昆布が浮いてきたらとり出す。かつおぶしを入れた後は煮立たせすぎない。そこだけに気を配ればいいんですね。

「そうなんです。料理は温度が大事。だしも温度が大事です。このとり方だと、昆布とかつおぶしの両方のうま味が存分に引き出されます。一番だしの味わいは、とにかく上品。すっきり、まろやかなうま味と芳醇な香りが特徴。薄味のお吸い物や煮物に使うと、だしの本領が発揮されますよ」

さらに、残った昆布とかつおぶしを使って、二番だしもとれます。

●かつおぶしと昆布の二番だしのとり方

①残った昆布とかつおぶしを鍋に戻し入れ、約90℃(沸騰直前)の湯500ミリリットルを注ぐ。

②そのまま5分ほどおいて、ボウルにざるとペーパータオルをのせ、すべてを注ぎ入れてこす。苦みや雑味が出るのでしぼらない。

「二番だしは、凝縮された強いうま味が特徴。ですから、味噌汁などの濃いめの味つけの料理におすすめです。特に、豆腐や野菜などあっさりした具材の味噌汁に使うと、うま味が引き立ちます」

ということで、かつおぶしと昆布を使っただしのとり方をうかがいました。では、煮干しを使っただしはいかがでしょうか。

「実は僕が一番好きなだしは、煮干しの一番だしです。皆さん、煮干しのだしというと、苦みがあると思っていませんか? 実はそんなことないんです。僕のとり方だと、すっきりとして雑味がなく、甘みがあってすごくおいしいだしがとれます。お吸い物や薄味の煮物におすすめですね。一番だしは、少しだけ時間がかかりますが、ほうっておくだけです。ぜひ試してみてください」

●煮干しの一番だしのとり方

① 煮干し20gは頭とはらわたを除いてボウルに入れ、水1リットルを注いで3時間以上おく(夏場は冷蔵庫に入れる)。火にかけなくても、うま味がじっくりと引き出される。

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② ボウルにざるをのせ、すべてを注いでこす。

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●煮干しの二番だしのとり方

① 残った煮干しを鍋に入れ、水1リットル、昆布10gを加えて中火にかける。

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② 煮立ったらアク(泡)をとり、1分ほど煮る。ボウルにざるとペーパータオルをのせ、すべてを注ぎ入れてこす。

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「二番だしは、昆布と一緒に煮るので、まろやかさが加わります。やはり味噌汁におすすめですね」

野﨑さんに教えていただいただしのとり方の肝は、温度。温度の調節は難しそうに思えるかもしれませんが、水の量や火にかける時間を守って、鍋の中の様子を見ていれば、だいたいその温度になっているので、難しく考えないでほしいと野﨑さんは語ります。

「だしはとりたてがおいしいです。だから、多めに作って日持ちさせようとは思わないで。なんといってもインスタントのように簡単に作れるものなんですから。いろいろな料理にだしを使うようになると、食材がもつ本来のおいしさが生かせるので、毎日の料理がもっと手軽になると思いますよ」

魚を煮るときは、冷たい煮汁から。

それではここからは、魚料理、肉料理をおいしく作る温度について教えていただきましょう。

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煮魚を作るとき、皆さんは、煮立った煮汁に魚を入れていませんか?昔は熱い煮汁に魚を入れると魚の表面がかたまってうま味を閉じ込めることができる、と思いがちでしたが、そのやり方ではおいしくできない、と野﨑さんは話します。

「煮魚は、煮汁が40~50℃のくらいのときに、魚のうま味が引き出され始めるといわれています。はじめから熱々の煮汁に入れてしまうと、うま味が引き出される前に魚が煮えてしまうんです。ですから、煮汁が冷たい状態から魚を入れて、中火弱くらいで煮始めるほうが徐々に温度が上がっていき、じっくりとうま味が引き出されるのです」

また、煮る前の魚に塩をふって20分ほどおくこともおすすめしたい、と野﨑さん。

「事前に塩をふることで、中まで塩が浸透し、『味の道』ができる。すると、その後の調味料の味が入りやすくなり、長く煮なくても味がしみ込むのです」

なるほど、魚は事前に塩をふって、味の道をつくっておくことが大事なんですね。

「塩をふった魚の水気をしっかりふき取ってから、冷たい煮汁に入れてください。煮汁が少しふつふつとし始める80℃くらいまで温度が上がったら、その後は弱火にして魚に味をなじませるために1~2分煮ることをおすすめします」

高い温度でグツグツ煮ると、身がかたくなってパサパサとした食感になるので、80℃よりも高い温度で煮るのは避けたいとのこと。目安としては、1~2㎝厚さの切り身では、煮汁が低温の状態から入れて煮立つくらいまで加熱すれば、中まで火が通っているとのこと。あまり難しく考えてなくも大丈夫そうです。

薄切り肉は霜降りをし、
塊肉は低温調理を

次は、肉をおいしくする温度について。
薄切り肉についてはVol.13でも紹介していますが、使う前にさっと湯通し(霜降り)をして酸化によるくさみをとるとよりおいしくなります。薄切り肉は長く加熱するとかたくなりますが、霜降りしておくことで、そのあとはさっと火を通すだけでよいので、やわらかい食感に仕上げることができます。今回紹介している「豚肉ねぎあえ」でもその手法を使っています。

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一方、厚みのある肉や塊肉のときには、肉のジューシーさをどのようにして残すかが課題だと語る野﨑さん。

「80℃以上で加熱してしまうと、おいしい肉汁があふれ出てパサパサになってしまいます。65~70℃でじっくり火を通せば、肉汁をキープできてしっとりやわらかく、おいしく食べられますよ」

オーブンで焼くときには温度設定ができますが、フライパンや鍋で蒸し焼きや蒸し煮などにするときは、温度調節がしにくいかもしれません。

「そんなときは、調理用の温度計を使って、一度温度をはかってみるのがいいかもしれませんね。そのときのフライパンや鍋の中の様子を覚えておけば、次からは温度をはからなくても自分の感覚を信じればいいと思います」

レシピ通りに作れば、加熱する温度を厳密に気にしなくてもおいしく仕上がります。でも、さらにうま味を引き出しやすい温度のことを意識するだけで、家庭でも毎日の料理がもっとおいしくなる。ぜひ皆さんも温度に気を使って、いろいろチャレンジしてみてください。

豚肉ねぎあえ

豚肉ねぎあえ

材料(2人分)

  • 豚薄切り肉……150g

  • わけぎ……50g

  • 合わせ味噌

    • 味噌(おすすめは「加賀みそ」)……50g

    • れんこんのすりおろし……25g

    • みりん……大さじ1

    • 酒……大さじ1

    • 酢……大さじ1

  • 白いりごま……5g

作り方

  1. 豚肉は3㎝幅に切る。熱湯に通して色が変わったら水にとり、水けをきる。

  2. わけぎはさっとゆで、3㎝長さに切る。

  3. 鍋に合わせ味噌の材料を入れて中火にかけ、木べらでねりまぜる。火が通ったら①、②を加え、からめるようにまぜる。火からおろしてそのまま冷まし、ごまを加えてさっとあえる。

「豚肉ねぎあえ」に
おすすめの蔵乃屋の味噌

加賀みそ

加賀みそ

「豚肉ねぎあえ」のおいしさをさらに引き立ててくれるのがこちらの味噌です。加賀の木樽でじっくりと寝かせた百万石の味。その上品な味わいを楽しんでください。

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信州二十五割糀みそ 粒