料理人 野﨑洋光

Vol.9世界に誇れる「和食」と
「白いごはん」

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食べ物の中で、僕は白いごはんが
一番好きなんです

これまで日本各地の味噌の種類や使い方を、和食料理人の観点から教えてくださった野﨑洋光さん。今回は、和食に欠かせないお米、白いごはんについて、野﨑さんの思いをうかがいました。

「僕はね、白いごはんには、強い思いがあるんです。実はほかのどんな食材よりも、ごはんにこだわっています。とにかく、食べ物の中で僕は白いごはんが一番好きなんですよ。炊き立てのあの香りも好きですし、ふっくらとした食感や粘り、うま味や甘みもたまらないですね。日本のごはんは世界に誇れると思っています」

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今や和食は世界中で大人気。さまざまな国でお米が食べられていますね。でも、日本のごはんのおいしさは、日本独自の炊き方にある、と野﨑さんは話します。

「日本では、お米は『炊き』ますよね。鍋で炊いても炊飯器で炊いても、炊いている間に米がしっかり水分を吸って、ふっくらとしたごはんに炊き上がりますね。ところが、アジアのほかの国や世界のいろいろな国では、お米を『ゆでる』ことが多いんです」

お米は炊くものだとばかり思っていましたが、ゆでてごはんにしている国もあるんですね。取材陣にはそんな認識がありませんでした。

「そうなんですよ。ほかの国ではお米をゆでて、ゆで上がったところでそのゆで汁を捨ててしまうんです。ゆで汁には、米のうま味や甘みが含まれていますから、捨ててしまうとごはん自体はあっさりとした味になってしまう。日本のごはんは、炊く段階でそのうま味や甘みを全部吸収していますから、格別な味わいになっているんだと僕は思っています」

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最近は、世界中に日本の炊飯器が普及しているので、日本のごはんの味わいは世界でも評価され、炊いたごはんもかなり食べられているのでは、と野﨑さんは実感しています。一方、あっさりとした味わいのゆでたごはんは、パラパラとした仕上がりになるので、いためたり、サラダに使ったりなど、その国独自の料理や食べ方に適していると感じているそう。

それではここで、日本ならではのごはんのおいしい炊き方を、野﨑さんに教えていただきましょう。

「米を洗ったら15分ほど浸水させて水を含ませます。この浸水は、とても重要。浸水しないと芯のあるごはんに炊き上がってしまうからです。さらに、浸水に使った水には米の臭みが出てしまっているので、炊く前には米をざるに上げて、いったん水けをきってから、鍋や炊飯器に入れて新しい水で水かげんをしてくださいね」

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最近の炊飯器はいろいろなモードが選べますよね。「普通炊きモード」には浸水時間も含まれていることが多いので、事前に浸水しておいた米を炊くときは、「早炊きモード」で炊くのがおすすめだと野﨑さんはおっしゃいます。

「鍋でごはんを炊くときは、時間を見ながら火かげんの調節が必要になりますが、炊飯器で炊くのとは一味違った香りや味わいになるので、鍋での炊き方を覚えてぜひ試してみてほしいですね」

では、野﨑さん流の鍋を使ったごはんの炊き方を教えてください。

「鍋に浸水させておいた米と水を入れたら、ふたをして強火で7分、ふたを少しずらしてふきこぼれない程度の火かげんにして7分、再びふたをして弱火にして7分、ごく弱火にして5分、火を止めてふたをしたまま5分蒸らします。蒸らし終わったら、しゃもじで鍋底からかえしてほぐし、余分な水分を飛ばしてください。蒸らすことでごはんがふっくらとし、しゃもじでかえしながら空気に触れさせることで、ごはんにツヤがでます」

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炊飯器で炊くときも、蒸らし終わった後からは同様にとのこと。さらに、おいしく食べるために気をつけてほしいことがあります、と語る野﨑さん。

「炊きあがった後のごはんの処理もまた大切ですよね。鍋で炊いたときは、食べるまで鍋にかたく絞ったぬれ布巾をかけ、ふたを半分のせておくと、蒸気がこもらず、仕上がりがベタッとならずにすみます。炊飯器で炊いたときは、そのまま保温モードにしておくと加熱が続けられて風味が落ちてしまうので、炊けたらスイッチを切ることを僕はすすめます。炊き上がったらふたを開けて余分な蒸気を飛ばし、その後、乾燥しないようにかたく絞ったぬれ布巾をかけておきます。食べるまでにごはんが冷めてしまったら、電子レンジで温めればいいんです。炊飯器の中で保温しておくよりも、ずっとおいしく食べられると思いますよ」

白いごはんで希釈しながら
おかずを食べます

野﨑さんの子どもの頃は、家の蔵に3年分の米が備蓄されていたので、農産物が不作の年でも白いごはんだけは存分に食べることができたそう。

「白いごはんがあれば、おかずはどんなものでもよかったんです。ごはんは何にでも合いますから。たっぷりの白いごはんで、濃いめのおかずの味を希釈しながら食べる。そんな食べ方が、大正時代くらいから1960年代くらいまでの日本の家庭の食事の中心だったと思います」

農林水産省がとった統計によると、国民1人当たりの1年間の米の消費量は、昭和37年(1962年)度がピークで118㎏でしたが、それ以降は減少傾向にあり、令和2年(2020年)度はピーク時の半分以下、一人当たり50.8㎏にまで減少しています。

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日本人が白いごはんをあまり食べなくなったのは、どんな理由があるのでしょうか。

「僕は、物流の発達が関係していると思います。高度経済成長期以降、物流がどんどんよくなって、さまざまな食材がどこでも鮮度よくおいしい状態で手に入りやすくなりました。だから、以前よりもおかずの種類も量もたくさん作るようになり、ごはんを食べる量がだんだん減っていったんじゃないかと思いますね」

栄養のバランスのことを考えると、おかずの量が増えたことはよいことですが、白いごはんの重要性も見直してほしいと野﨑さん。

「白いごはんって、本当にどんな食材や味つけのおかずとも合いますよね。これってすごいことです。献立を考えるときに、主食を白いごはんにすれば、おかずは和だけでなく、洋風にも中華風にも合いますから、おかずに多様性が生まれます。見た目の彩りもよくなって楽しめますし、栄養のバランスも自然とよくなる。ごはんは食べないでおかずだけ食べる、ということをせずに、ごはんとおかずを偏りなく食べることをおすすめしたいですね」

「一汁三菜」にこだわらずに、
気楽に「一汁一菜」にしてもいい

「一汁三菜」は、ごはんに、汁もの、主菜、副菜2品の献立のことをいい、和食の基本とも考えられ、栄養バランスのよい食事とされています。ごはんをベースにした一汁三菜について、野﨑さんはどのように考えられているのでしょうか。

「昭和25~27年にかけて、全国の小学校の完全給食が実施され始めるのですが、その給食のスタイルが一汁三菜をベースにしていたと僕は考えています。主食はごはんではなくパンだったと思いますが、牛乳(汁もの)、主菜、副菜2品という構成で、栄養のバランスがよくとれていたのだと思います」

一般の家庭でも、大正時代くらいからは一汁三菜の食事を意識していたそうですが、昭和25年以降の給食の普及から、一汁三菜が日本の家庭に定着していったのでは、と野﨑さんは考察しています。

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「でも、毎日家庭で一汁三菜を作るのは、実際には大変ですよね。だから僕は、ごはんに具だくさんの汁物とおかず1品の一汁一菜でいいと考えています。そして汁物は味噌汁がおすすめです。具の組み合わせは自由ですし、具を煮て味噌をとき入れるだけで簡単にできてしまいますから」

まずは、一菜であるおかずを考えて、それに足りない栄養を汁物で補給すると考えればよいそう。もしくは、汁物に肉や魚介を入れて主菜的な扱いにし、一菜で野菜をたっぷり食べるというのでもかまいません。

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「今回紹介している、焼き鳥とセロリの味噌汁は、たんぱく質源の鶏肉を使っているので、主菜と考えてもいいですね。ほかには野菜いためやサラダなどを添えてもいいですね」

次回は、野﨑さんに和食の変遷についてうかがいます。

焼き鳥とセロリの味噌汁

焼き鳥とセロリの味噌汁

材料(2人分)

  • 鶏もも肉……200g

  • セロリ……50g

  • ねぎ……1/3本

  • 味噌(おすすめは「(資) 八丁味噌謹製 豆みそ」)……30g

  • あらびき黒こしょう…適量

作り方

  1. 鶏肉は8つに切り、グリルで焼いて中まで火を通す。

  2. セロリは筋を除いて1㎝長さに切り、ねぎは1㎝長さに切る。

  3. 鍋に水1.5カップ、1、2を入れて中火にかける。煮立ったら火を弱めて味噌をとき入れ、1分ほど煮る。椀に盛り、あらびき黒こしょうを振る。

「焼き鳥とセロリの味噌汁」に
おすすめの蔵乃屋の味噌

(資)八丁味噌謹製 豆みそ

(資)八丁味噌謹製 豆みそ

「焼き鳥とセロリの味噌汁」のおいしさの決め手は、味噌。この豆みそは、大豆と塩のみを原料として木桶に仕込み、熟成させました。うま味と渋みのある独特の風味が特徴のこの豆みそで、ぜひこの料理を作ってみてください。

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青森かねさみそ