「和食」に欠かせない
発酵食について
日本の発酵食の発展は
「こうじ」の存在にあります
味噌や酒、みりん、しょうゆなどの発酵食は、私たちの食卓にはなくてはならないものですね。
発酵食は“こうじの力”によって作られますが、まずはこの「こうじ」について。
「こうじ」には「糀」と「麹」という2種類の漢字がありますが、どのように使い分けられているか、皆さんご存じでしょうか。
「糀」は米麹のみに使われる漢字で、日本の国字です。
まるで米に麹菌が「花が咲くように」生える様子から生まれたといわれています。米へんに花と書きますので、覚えやすいですよね。
もう1つの「麹」は中国から来た漢字で、米、麦、大豆などの穀物を蒸して麹菌を繁殖させたものを表します。
それでは、この麹菌はどのように作り出されたのでしょうか。
「麹菌は、いわゆるカビの一種で日本の国菌です。奈良時代の『播磨国風土記』に、乾飯がぬれてカビが生え、それで酒を造ったという記録があるのですが、そのカビが麹菌だと考えられます」と話すのは野﨑さん。
麹菌は偶然の産物と言われ、その後先人たちがどうやって麹菌を作っていたかは詳しくはわからないのだとか。
「米などのでんぷん質にカビをつけ、アルカリ性の強い灰アクを加えることで、アルカリに弱い毒性のある菌を消滅させます。それで、アルカリに強い麹菌が残ったと考えられます。でも、そもそも麹菌はカビの1種なので、先人たちがそれを食べられるということを発見したことが、すごいことなんだと僕は思っています」
塩糀に、しょうゆ糀。
うま味の奥行きを広げてくれます
近年ブームとなり、調味料として定番化してきた「塩糀」(しおこうじ)は、塩、糀(米麹)、水をまぜて発酵させた調味料です。和食料理人である野﨑さんは、この塩糀をどのようにとらえているのでしょうか。
「塩糀は、甘みとうま味があって、使い勝手がいい調味料ですよね。塩糀に含まれている酵素の働きで、たんぱく質が分解されやすくなるので、肉や魚介などに塩糀をまぶしてしばらくおいてから加熱すると、やわらかく仕上がるんです」
しょうゆと糀(米麹)で作られた「しょうゆ糀」(しょうゆこうじ)については、いかがでしょうか。
「僕は、しょうゆ糀を煮物の煮汁に使ったり、しょうゆ感覚で納豆や焼き魚にかけたりもしますよ。特に、納豆に使うと発酵食品同士のうま味の相乗効果ですごくおいしく感じますね。塩糀もしょうゆ糀も、うま味の強い調味料なので、料理に少し加えるだけでも味に奥行きが出るんです」
米が主食の日本だからこそ
糀を使った調味料などが発達した
蒸した米に麹菌を繁殖させたのが、糀(米麹)。
日本人にとっては、米はなくてはならない食材ですね。
「米が欠かせない食材だからこそ、日本では米に由来する米麹も、その米麹からできる発酵調味料も大きく発展してきたのだと僕は考えています。味噌は中国から伝わってきたといわれ、平安時代には宮中で食べられていたことがわかっています(味噌の発展についてはVol.6でもお話ししていますのでごらんください)」。しょうゆも歴史は古く、現代のしょうゆに近いものが造られるようになったのは室町時代と言われていて、文化の中心であった関西から先に発展しました」
ちなみに、日本酒の起源は、稲作が盛んになった弥生時代の頃と言われています。古い文献には神事に携わる巫女が米を口の中でよく噛んで、それを自然発酵させて酒を造っていたとあり、その酒はとても神聖なものとされていたとか。現在のような糀(米麴)を使って日本酒を造るようになったのは江戸時代と言われています。
みりんも糀(米麹)を使って造りますが、ほかの調味料に比べると比較的新しい調味料だと語る野﨑さん。戦国時代に、中国が起源といわれる蜜淋(ミイリン)という酒が日本に入ってきて、江戸時代には庶民にも広まり、甘いお酒として楽しまれていたそう。
「蜜淋は甘くて、女性にも人気のお酒だったようですね。江戸時代後期には徐々に調味料としても使われるようになりますが、その当時はまだ色の濃い『赤みりん』だったのだと思います。1814年に千葉県の流山で色が澄んだ『白みりん』が開発され、それが現代の本みりんの発祥だと考えています」
最初の発酵食品は塩漬け。
糀によっておいしさがアップしました
「先に発酵調味料の話をしてしまいましたが、日本においての最初の発酵食品は塩漬けではないかと僕は考えています。食材は野菜や魚介だったと思います。先人たちは食材を保存するために、入手しやすかった塩を使って塩漬けにしたのではないでしょうか。塩漬けをしてみたら甘みが出ておいしくなった。さらに、糀(米麹)などを加えてみたらうま味が増してよりおいしくなった。こういったプロセスを何度も繰り返して、さまざまな発酵食品が生まれたのでしょうね」
さらに、野﨑さんは発酵食品における塩と糀のバランスについても話します。
「糀によって食材の発酵は進みますが、塩を加えることで、発酵をおさえてすっぱくなりすぎるのをおさえることができます。塩は塩漬けで発酵させる働きもあるのに、糀の発酵をバランスよくおさえる効果もあり、不思議な力を持っていると感じます」
塩と糀を合わせて漬け込むことで、ほどよく発酵してうま味が増し、おいしく長期保存をすることができるようになったのですね。
江戸時代になると
発酵食の幅が広がって開花
「平安時代にはチーズのような『蘇』と呼ばれる発酵食品がありました。先ほどもお話ししたように、1700年代くらいからいろいろな食品を糀(米麹)で漬けるようになり、さらに糠でも漬けるようになり、発酵食作りが盛んになったようです。塩漬けした魚とご飯を交互に重ねて漬けることで乳酸発酵が進む『なれずし」も、独特の風味ですね。滋賀県の鮒ずしが有名です」
江戸時代は戦乱もなくなり、落ち着いた時代になったことで、発酵食などにも手間ひまをかけられるようになったからでは、と野﨑さんは考えています。
「発酵食は1種類だけでもうま味がありますが、僕は和食の幅を広げるという意味でも、発酵食同士を組み合わせて使うことがよくあります。相乗効果で、うま味の奥行きが広がるんです。例えば、味噌とチーズの組み合わせ。店でも、プロセスチーズを味噌床に2日ほど漬けたものをさっとあぶって、前菜にしたことがありますよ。味噌とチーズの香りをふわっと漂わせ、とろっとしたところをお客さまに楽しんでもらうのです。今回ご紹介する『えびチーズ味噌あえ』も、味噌×チーズの発酵食同士の相乗効果を狙って考案した料理です。和洋折衷の味わいをぜひ楽しんでくださいね」
えびチーズ味噌あえ
材料(4人分)
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えび(殻つき)……8尾
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ねぎ……1/2本
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合わせ味噌
白味噌(おすすめは「京都白みそ」)……50g
粉チーズ……20g
砂糖……大さじ1
水……大さじ2
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カシューナッツ……30g
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パクチー……少々
作り方
①ねぎは3㎝長さの短冊切りにする。
②カシューナッツはフライパンでから炒りし、包丁で叩いて細かくする。
③合わせ味噌の材料をまぜ、②を飾り用を残して加え、さっとまぜる。
④鍋に塩分1.5%の塩水を70℃に沸かし、えびを5分ほどゆでる。湯をきって殻をむく。
⑤鍋に④、①、③の合わせ味噌を入れて中火にかけ、さっとまぜて味をからめる。器に盛り、飾り用のカシューナッツを散らし、パクチーをのせる。
「えびチーズ味噌あえ」に
おすすめの蔵乃屋の味噌
京都白みそ
「えびチーズ味噌あえ」のおいしさの決め手は、味噌です。関西風のお雑煮や西京焼き、ぬたなどにも使える塩分が5%以下の甘みそで、ぜひこの料理を作ってみてください。